中東情勢 2025年6月

株式投資

2025年6月時点の中東情勢は、イスラエルとイランを中心とする緊張の高まりや、パレスチナ問題、レバノンやシリアなど周辺国での紛争が絡み合い、複雑かつ緊迫した状況が続いています。以下に主要なポイントを簡潔に解説します。

イスラエルとイランの対立激化

  • 背景: 2023年10月のハマスによるイスラエル攻撃を契機に、中東情勢は不安定化。イランがハマスやレバノンのヒズボラ、フーシ派(イエメン)など代理勢力を支援し、イスラエルとの「影の戦争」が続いてきた。
  • 最新動向: 2025年6月、イスラエルがイランの核施設や軍事拠点を攻撃し、イランがミサイルで報復するなど、両国間の直接衝突が顕著に。特に、イスラエルのテヘラン空爆やイランのペタフ・ティクヴァへの攻撃で民間人犠牲者も発生し、緊張はピークに達している。
  • 国際的懸念: 国際原子力機関(IAEA)は、イランのウラン濃縮施設の損傷を指摘し、放射性物質の拡散リスクを警告。ロシアはイスラエルの攻撃を「違法」と非難し、中国やフランスは情勢緩和を求めるが、解決策は見えていない。

パレスチナ・ガザ地区の状況

  • ハマスとの紛争: 2023年10月以来、イスラエルとハマスの戦闘は継続。ガザでは人道危機が深刻化し、2025年6月にはイスラエル軍の攻撃でパレスチナ人30人以上が死亡したと報告されている。米国はガザ停戦決議を拒否し、人質解放を条件とする立場を維持。
  • 反ハマス勢力の台頭: ガザ内で「反ハマス」武装勢力がイスラエルの支援を受け活動を開始。ハマスの支配力低下が指摘される一方、地域の不安定化要因にもなっている。
  • 国際対応: 国連や人道支援団体はガザへの支援を強化するが、イスラエルの封鎖や戦闘で効果は限定的。グレタ・トゥーンベリらが参加した援助船もイスラエルに阻止された。

レバノンとヒズボラ

  • 戦闘激化: イスラエルはイランの支援を受けるヒズボラに対し、レバノン南部で空爆を強化。2024年10月時点で死者2000人超と報じられ、2025年も戦闘は継続。
  • 人道危機: レバノンでは避難民が増加し、経済的困窮と相まって社会不安が高まっている。国際社会の支援は不足気味。

シリアのアサド政権崩壊後

  • 新局面: 2024年12月、アサド政権が崩壊し、反政府イスラム勢力が台頭。イスラエルはシリア国内のイラン関連施設を攻撃し、権力の空白を突いた地政学的再編が進む。
  • リスク: ロシアやトルコの介入、クルド勢力の動向など、シリアは新たな紛争の火種となっている。

国際社会の反応とトランプ政権の影響

  • トランプの動向: 2025年1月に再就任したトランプ米大統領は、中東情勢を重視し、国家安全保障会議(NSC)を招集。イランへの強硬姿勢を強めつつ、イスラエルとイランの「停戦取引」を模索するが、具体策は不透明。
  • 他国の対応: 中国とロシアは中東での影響力拡大を狙い、イスラエルを牽制。フランスはイラン政権転覆に反対し、外交的解決を主張。日本はエネルギー供給安定化に注力し、石破首相が経済産業省に対応を指示。
  • 経済的影響: 中東情勢の緊迫化で原油価格が急騰(1バレル75ドル台半ば)し、海運保険料も上昇。円高やインフレ圧力が日本企業に影響を及ぼす。

今後の見通し

  • エスカレーションのリスク: イスラエルとイランの報復の応酬が続けば、地域戦争に発展する恐れがある。フーシ派やヒズボラの動向も注目点。
  • エネルギーへの影響: 中東産油国が戦闘に巻き込まれていないため、1973年のような大規模な石油危機は現時点で回避されているが、情勢悪化で供給途絶リスクは存在。
  • 投資家への影響: 地政学リスクの高まりで金融市場は不安定化。円高や株価ボラティリティの上昇が予想されるが、中東情勢単体での市場への影響は限定的との見方もある。

まとめ

中東情勢は、イスラエルとイランの直接衝突、ガザやレバノンでの戦闘、シリアの政変など複数の要因が絡み、2025年6月現在、極めて不安定です。国際社会の分裂やトランプ政権の不透明な政策が解決を難しくしており、軍事衝突のエスカレーションとエネルギー供給への影響が最大の懸念点です。日本としては、エネルギー安全保障や経済的影響への備えが急務となります。

続いて日本市場において影響を受ける銘柄を解説します。

上がる可能性のある銘柄

中東情勢の緊迫化は、原油価格の上昇や地政学リスクの高まりを引き起こし、特定のセクターに資金流入が期待されます。主に以下のセクターと代表的な銘柄が注目されます。

a. 石油・エネルギー関連銘柄

中東は世界の原油生産の約3分の1を担い、紛争による供給不安が原油価格を押し上げます。2025年6月13日には、イスラエルのイラン攻撃を受け、WTI原油先物が7%以上上昇(1バレル77ドル台)。東京市場でも中東産原油先物が一時6万3200円(7%超上昇)となりました。 日本は原油の約9割を中東から輸入するため、国内の石油関連企業は恩恵を受ける可能性があります。

  • INPEX(1605): 国内最大手の石油・天然ガス開発企業。権益生産量が大きく、原油価格上昇で収益向上が期待される。「本命」とも評される。
  • 石油資源開発(1662): 石油・天然ガスの開発・生産・販売を手掛け、掘削受託サービスも提供。原油高の恩恵を受けやすい。
  • ENEOSホールディングス(5020): 石油精製・販売の大手。現時点で供給への直接影響はないが、価格上昇で利益率改善の可能性。
  • 出光興産(5019): 石油精製と販売に加え、資源開発も展開。原油高で株価上昇が見込まれる。
  • コスモエネルギーホールディングス(5021): 石油関連事業に強く、中東情勢悪化で株価が上昇傾向。
  • 三井物産(8031): 総合商社だが、エネルギー関連事業に強み。原油やLNG価格の上昇で業績向上が期待される。

b. 防衛関連銘柄

地政学リスクの高まりは防衛力強化の思惑を強め、防衛関連株に資金が流入する傾向があります。石破茂首相の防衛力強化方針も追い風。

  • 三菱重工業(7011): 戦闘機、艦船、ミサイルなど幅広い防衛事業を展開。防衛関連の「本命」とされる。
  • 川崎重工業(7012): 防衛装備品(艦船、航空機など)の製造に強み。地政学リスクで注目度が高い。
  • IHI(7013): 航空・宇宙・防衛分野で実績。防衛関連の受注増加が期待される。
  • 日本アビオニクス(6946): 防衛向け電子機器やシステムを提供。中小型株だが注目度上昇。
  • 東京計器(7721): 防衛関連の精密機器を製造。地政学リスクで物色されやすい。

c. 海運関連銘柄

中東情勢の悪化は、ホルムズ海峡などでの輸送リスクを高め、海運保険料や運賃の上昇を招きます。これが大型海運企業に追い風となる可能性があります。

  • 日本郵船(9101): グローバルな海運大手。運賃上昇やエネルギー輸送需要の増加で恩恵。
  • 商船三井(9104): 原油タンカーやLNG輸送に強み。地政学リスクで株価上昇の可能性。
  • 川崎汽船(9107): 同様に運賃高騰の恩恵を受ける可能性が高い。

d. 金(ゴールド)関連銘柄

地政学リスクの高まりで金は安全資産として買われ、価格が最高値付近で推移。金関連銘柄も注目されます。

  • 住友金属鉱山(5713): 国内最大手の非鉄金属企業で、金や銅の鉱山開発・精錬を行う。金価格上昇で収益向上が期待。

下がる可能性のある銘柄

中東情勢の緊迫化はリスクオフムードを強め、株価全般に売り圧力をもたらします。特に以下のセクターは影響を受けやすいです。

a. 半導体・ハイテク関連銘柄

地政学リスクの高まりや原油高によるインフレ懸念は、米国の利下げ期待を後退させ、ハイテク株や成長株に下落圧力をかけます。2024年10月には、中東情勢緊迫化で東京市場の半導体関連株が軒並み下落。

  • 東京エレクトロン(8035): 半導体製造装置大手。リスクオフで売られやすく、TOPIXの下落寄与度1位に。
  • アドバンテスト(6857): 半導体検査装置で世界シェアが高いが、リスク回避で下落傾向。
  • レーザーテック(6920): 半導体関連装置の成長株。地政学リスクで大きく売られる可能性。
  • TDK(6762)・村田製作所(6981)・太陽誘電(6976): 電子部品関連。米ハイテク株安の影響を受け下落。

b. 輸出関連銘柄

円高圧力(リスクオフによる安全資産への資金流入)や米金利上昇懸念が、輸出企業の収益を圧迫します。

  • トヨタ自動車(7203): 輸出比率が高く、円高で収益悪化の懸念。株価は神経質に反応しやすい。
  • ファナック(6954): 機械・ロボット関連の輸出企業。円高と米市場の軟調さで下落リスク。
  • コマツ(6301): 建設機械の輸出企業。地政学リスクで売られやすい。

c. 航空・旅行関連銘柄

原油価格の上昇は燃料コストを押し上げ、航空や旅行関連企業の収益を圧迫。米国市場でも航空株が急落した例が報告されています。

  • ANAホールディングス(9202): 航空大手。燃料費高騰と地政学リスクで株価下落の可能性。
  • 日本航空(9201): 同様に原油高の影響を受けやすく、リスクオフで売られやすい。
  • エイチ・アイ・エス(9603): 旅行需要の減退懸念で株価に下押し圧力。

d. 消費関連銘柄

インフレ圧力や円高による輸入コスト増は、消費関連企業のコスト構造や消費者心理に悪影響を及ぼします。

  • ユニ・チャーム(8113): 生活必需品だが、原材料コスト上昇で利益圧迫の可能性。
  • 花王(4452): 原油由来の化学製品のコスト増が懸念される。

投資家が注意すべきポイント

  • リスクオフの影響: 中東情勢の悪化は、株価全般に下落圧力をもたらす。特に日経平均株価は2024年10月2日に一時1000円以上下落するなど、敏感に反応。 ただし、野村證券の山口正章氏は「中東情勢の金融市場への影響は限定的」とし、過剰反応を避けるべきと指摘。
  • 原油供給の状況: 現時点で中東産油国の石油施設への直接攻撃は確認されておらず、1973年のオイルショックのような大規模な供給途絶は発生していない。 ただし、ホルムズ海峡の封鎖リスクが現実化すれば、影響はさらに拡大。
  • 為替の影響: 中東情勢緊迫化は円高(安全資産買い)や円安(インフレ懸念による米金利上昇)の両方向に影響。2024年4月には円が34年ぶり安値を更新するなど、為替市場は不安定。
  • 投資戦略: 短期的なリスクオフ局面では、石油・防衛・海運関連株の押し目買いや、金関連への投資がヘッジ策として有効。逆に、半導体やハイテク株はボラティリティが高いため慎重な対応が必要。

銘柄についてのまとめ

中東情勢の緊迫化は、石油・エネルギー(INPEX、ENEOS、出光興産など)、防衛(三菱重工業、川崎重工業など)、海運(日本郵船、商船三井など)、金(住友金属鉱山)関連銘柄に上昇圧力をもたらす一方、半導体(東京エレクトロン、アドバンテストなど)、輸出(トヨタ、ファナックなど)、航空・旅行(ANA、JALなど)、消費関連(ユニ・チャーム、花王など)銘柄に下落圧力を与える可能性があります。投資家は、情勢のエスカレーション度合いや原油供給への影響を注視し、資金管理を徹底することが重要です。

免責事項: 本情報は投資助言ではなく、個々の投資判断はご自身の責任で行ってください。最新の市場動向や企業業績を確認することをお勧めします。

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